社会臨床雑誌17巻2号

はじめに 日本社会臨床学会編集委員会 (1)
『社会臨床雑誌』の発売元を現代書館にお願いすることについて 日本社会臨床学会運営委員会 (2)

〈日本社会臨床学会第17回総会報告(2009年5月30〜31日 於奈良女子大学)〉
記念講演 心理学に希望はない。しかし……  浜田寿美男 (3)
シンポジウムI 心理主義化と薬物療法の現在を考える  (15)
 発題1心理主義から環境制御主義への移行 中井孝章 (16)
 発題2薬物療法の現在と心理主義の変容 中島浩籌 (31)
 発題3薬で問題は解決されるのか 戸恒香苗 (37)
 討論部分  (42)
日本社会臨床学会第VIII期総括 第VIII期運営委員会 (50)
第VIII期第2年度会計報告 第VIII期運営委員会 (56)

〈論文〉
フランシス・ゴルトンの「優生ユートピア」 秋葉聰 (57)
〈家庭科の不思議(そのIII)〉戦後少女の春、そして秋 梶原公子 (73)
当事者との距離や連携 その前に 松浦武夫 (90)

〈映画や本で考える〉
自己実現と食と健康は関係あるのだろうか 柄本三代子 (102)
食卓と人生設計の「背後霊」 小沢牧子 (105)

〈ここの場所から〉
観念と現実の間(1) 佐藤剛 (110)
〈まか不思議な世界VII〉 赤松晶子 (112)

日本社会臨床学会2009年秋の合宿学習会案内:「当事者」概念を考える  (表紙裏)
編集後記  (119)

はじめに

日本社会臨床学会編集委員会

本年5月30・31日、奈良女子大学で、同校勤務の浜田寿美男さんに総会実行委員長をお願いして、私たちの学会は第17回総会を開催した。本号から、そのときの記録を二回にわたってお届けする。本号では、浜田さんによる記念講演「心理学に希望はない。しかし……」、シンポジウムⅠ「心理主義化と薬物療法の現在」そして、日本社会臨床学会第Ⅷ期総括及び08年度会計報告を掲載した。浜田さんは、心理学を批判的に吟味しながらも、心理学に託される社会的要請に応えつつ、冤罪に巻き込まれた人々などを内面から世界につながる視点にこだわって描く試みに挑戦してきた経過を自分史を織り交ぜて語っている。シンポジウムⅠで、中井孝章さんは、今日の社会は、人間を心理主義的に操作することから、公共空間などの環境を人為的に変えることで人間を制御する方向に移行していると指摘し、環境制御主義について論じている。中島浩籌さんは、「問題」を抱える若者たちに関わりながら、薬物療法にもカウンセリングにも納得しない諸事実を語り、心理主義化は中身を変えつつ今なお進行していることを指摘している。戸恒香苗さんは、児童精神科の現場では、薬物療法と認知療法を往復させながらも、前者に強調点を移してきている現状を指摘して、薬物療法が子どもたちの生活現実を翻弄していると批判している。お三人の話題提供を受けた討論部分も玩味していただければと願っている。
秋葉聰さんは、シンポジウムⅡ「『優生学から新優生学へ』を検証する」午前の部で、「アメリカの優生思想の歴史と現在」を報告したが、そのプロローグ的論文として、先号には「伝統的な優生思想と今日の優生思想」を寄せている。今号の「フランシス・ゴルトンの『優生ユートピア』」は、総会報告の冒頭部分で語られたものだが、「伝統的な優生思想」の創始者が優生社会を“ユートピア”として描いた作品を批判的に紹介し解説している。
梶原公子さんの連載論文〈家庭科の不思議〉はその三回目を迎える。戦後、民主的な教科として出発したはずの家庭科はやがて「女子必修科目」になるのだが、そのなかで家庭科教育を受けた女性たちの夫、家事、職業などとの関係史を追いながら、戦後教育の問題を論じている。
松浦武夫さんは、福祉労働の現場から、川英友さんの「『当事者』概念の落とし穴について」(16巻3号)を批判的に読みながら、「当事者」との距離を見つめて、彼らとの連携を模索する過程を振り返っている。実は、お二人の問題提起に刺激されて、今回の学習会「『当事者』概念を考える」(表紙裏参照)を企画することができた。ここでも、この学習会のご参加をお誘いしたい。
最近、梶原公子さんは『自己実現シンドローム~蝕まれる若者の食と健康』を著したが、〈映画や本で考える〉欄で、柄本三代子さんと小沢牧子さんには、この本を素材に考えて頂いた。お三人は、「食と健康」の場にそって、三者三様に「自己実現」を論じているが、この論の検証が始まりそうである。
〈ここの場所から〉欄では、いずれも連載で、佐藤剛さんが、児童養護施設立ち上げ格闘の様子を書き出している。赤松晶子さんは、第7回目になるが、精神医療の現場で患者と関わりながら、精神病の原因は疎外の積み重ねであると、痛みの中で振り返っている。

以上でお分かりのように、誌上討論、一冊の本を複数で読むこと、臨床現場からの連載エッセイなどから、誌上での人々やテーマの広がり、そして、持続的な討論が予感されてくる。読者の皆さんの気さくな投稿をお待ちしている。次号では、〈第17回総会記録、その2〉をお届けするが、18巻1号(一月末日締切、4月発行予定)では、恒例だが、〈総会記録を読む〉を企画している。皆さまの感想を鶴首してお待ちしたい。

『社会臨床雑誌』の発売元を現代書館にお願いすることについて

日本社会臨床学会運営委員会

『社会臨床雑誌』は、会員および講読会員の皆さまの会費納入と投稿、総会・学習会の記録、編集企画に見合う非会員の寄稿などによって、支えられ、促されて、今日まで、歩んでくることが出来ました。おかげさまで、今日になるほどに、内容にバラエティが出てきて、特に誌上でのテーマや人々の交流が展開していることは有り難いことです。その結果、ページ数も増えてきました。ただ、財政事情で、『社会臨床ニュース』71号でも申し上げましたが、17巻2号より、当分の間、ページ数を120〜130頁に制約して、あふれた原稿は次号回しにすると決めました。窮状をご賢察下さり、年度会費(6,000円)納入のこと、会員の新規加入の誘いなど、ご協力くださいますように、重ねてお願い致します。

さて、『社会臨床雑誌』は、現在、発行部数500ですが、会員および図書館など講読会員への配布、掲載者への進呈、学会活動協力者(非会員)への贈呈、総会など関連諸集会での販売、学会事務局への発注に基づく販売などを介して、読んでいただいています。なお、発注に基づく販価は、会員の場合、一冊、1,000円、非会員の場合2,000円です。
新しく、学会誌など学会活動に関心を寄せてくださる方々の開拓をしたいという希望は、一貫してあるのですが、有効な方法も思いつかずに、今日に到っています。このたび、18巻1号(2009年4月発行予定)から、現代書館のご協力で、同社を発売元として、学会誌の一部(当面、50部)を販売することになりました。このことによって、広く、学会誌が着目され、学会の場に新しい出会いやテーマが加わっていくなど、学会活動の活性化に繋がってほしいと願っています。
とはいえ、学会誌が小売店に並ぶわけではなく、現代書館が、同社の宣伝媒体(ホームページ、カタログ、アマゾンなど)によって、学会誌を周知させ、外からの発注に応じて販売する窓口になるということです。なお、現代書館経由の場合の各号販価は、当面、2,500円+税となります。

ご存知のように、現代書館は、学会編『カウンセリング・幻想と現実(上巻・下巻)』や、シリーズ「社会臨床の視界」(全4巻)を発行してきましたが、そうしたなかで、学会は、同社との協力と信頼の関係を築いてきました。このたび、その過程の一環として、両者の合意に基づき、『社会臨床雑誌』発売元=現代書館、が成立したわけです。
今後とも、従来通り、学会は、その活動の一つの不可欠な軸として、独自に自由な編集を進めて、年三回、学会誌を発行して参りますので、今回の措置の趣旨をご理解くださり、これまで以上に、ご投稿、総会・学習会への参加など、学会活動にご協力くださいますようお願い致します。

なお、既に申し上げたように、このことは、18巻1号より実施しますが、ご意見やご質問があれば、学会事務局宛お届けください。個別にお答えするか、必要な場合17巻3号(11月末日締切、2010年1月発行予定)や『社会臨床ニュース』などで、お答えして参ります。(2009/10/11)