社会臨床雑誌第18巻第2号

社会臨床雑誌第18巻第2号
2010年10月17日発行

はじめに 日本社会臨床学会編集委員会 (1)
【日本社会臨床学会第18回総会報告(2010年5月8〜9日 於日野市・明星大学)】
■シンポジウムI 「当事者」概念を問い直す (2)
話題提供1 「する−される」関係にこだわって「当事者」問題を考える 篠原睦治 (3)
話題提供2 障害者の体験と運動から「当事者」概念を振り返る 鈴木治郎 (13)
話題提供3 「当事者」「当事者主権」により不可視化される存在・隠蔽されてしまう何か 川英友 (17)
討論 (25)
■記念講演
楕円幻想—ドストエフスキー・漱石・賢治・古井由吉に触発されつつ— 武田秀夫 (36)
■シンポジウムII いま、自立・労働を問い直す (59)
話題提供1 無法状態にある若者の労働現場 今野晴貴 (61)
話題提供2 おたがいさまでやっていける関係を 山下耕平 (73)
話題提供3 経済的「自立」だけでなく、「自立」という概念そのものを問題化したい 中島浩籌 (78)
討論 (84)
日本社会臨床学会第IX期中間総括(2009年4月〜2010年3月) 日本社会臨床学会第IX期運営委員会 (97)
日本社会臨床学会第IX期第1年度会計報告 日本社会臨床学会第IX期運営委員会 (102)
〈映画や本で考える〉
〈平等〉への意志 竹内章郎『平等の哲学』 小屋敷琢己 (103)
山下耕平『迷子の時代を生き抜くために』を読んで 斉藤悦雄 (108)
近代化のなかの国家と民族、そして宗教—澁谷利雄『スリランカ現代誌』を読む 篠原睦治 (111)
日本の教育への予言的発言 佐々木賢『商品化された教育—先生も生徒も困っている』 武田利邦 (114)
内面管理型セラピーの衰退/遠隔管理型セラピーの黎明 中島浩籌著『心を遠隔管理する社会—カウンセリング・教育におけるコントロール技法』 中井孝章 (117)
八木晃介『の社会学』に触発されて、「健康」と「死」の問題を問い直す 原田牧雄 (122)
『野いちご』に希望はあるか〜山下恒男、エリクソンとともにあらためて『野いちご』を観る〜 林延哉 (132)
〈ここの場所から〉
仕事をやめて、母と暮しながら 我妻夕起子 (144)
都立高校改革の破綻 岡山輝明 (148)
観念と現実の間(4)—児童養護施設立ち上げ格闘記— 佐藤剛 (152)
〈まか不思議な世界 IX〉〜俺の人生、一体何なんだ!?〜 赤松晶子 (154)
編集後記 (161)

はじめに

日本社会臨床学会編集委員会

本学会の第18回総会は、去る5月8日〜9日、榎本達彦を実行委員長に、東京の明星大学で開催された。今号では、まずその報告を掲載する。シンポジュウムIは、昨年の合宿学習会の論議を受け、「『当事者』概念を問い直す」というテーマで行われた。篠原睦治は、自身の実践的経験を踏まえ、「関係としての障害」を提示し、「する側・される側のせめぎ合い」についての自論を深めている。鈴木治郎は、「当事者」あるいは「当事者性」という言葉を使う人間の意識を吟味しながら、「中途障害者」について独特の見解を披露している。川英友は、「当事者」という概念によって救われる人間もいることを認めつつ、どのような人間であっても、そのままの状態で生きる場を与えられるべきだ、という自論をラディカルに展開している。記念講演は、武田秀夫氏の「楕円幻想―ドストエフスキー・漱石・賢治・古井由吉に触発されつつ―」である。今までの総会の記念講演とは、一線を画す文学的な内容は、とても新鮮なものであった。自身の人生を振り返り、人と人との関係の理想の形が、「楕円幻想」へと結晶化していく、その思考過程は、こうして活字化されることで、いっそう深く読者に刻み込まれるものと思う。シンポジュウムIIは、「いま、自立・労働を問い直す」というテーマで行われた。3人の話題提供者は、いずれも現代の若者の現場に深い関わりを持つ人たちで、特に今回はアクチュアルな議論が展開された。今野晴貴は、今の非正規雇用の若者が、無法状態の中でやりたい放題の企業に、いかに惨い目にあわされているかを語り、山下耕平は、生きる場を奪われた若者の居場所を若者たちとともに探ってきたことを、やわらかな口調で話す。中島浩籌は、「自立」という観念に注目し、若者の心理的自立・経済的自立が行き詰まる中で、今度は社会参加を強要する、社会的自立が提唱されていることを、警告している。
ここ2年ほどの間に、社臨の会員や運営委員の著作が次々と刊行された。そこで〈映画や本で考える〉コーナーでは、これらの本を集中的に取り上げることにした。今回は7名の方に依頼し、それぞれの視点に立って、その読後感を自由に論じていただくことになった。著書の論理に正確に沿って論じられたもの、その本に触発されて自論を展開したもの、さらにそこから独自の映画論を繰り広げたもの…など様々な文章が集まっている。はっきりと言えることは、一人ひとりの筆者が、それぞれ独自の見解をもって、これらの本に相対し、そこに何かを探り当てているのではないか、ということである。そのあたりをお読み取りいただき、一人でも多くの人が原著にも目を通していただけたらありがたいと思う。
〈ここの場所から〉の我妻夕起子は、自分と母の日常生活を淡々と綴りながら、「介護」の問題点などもさり気なく指摘している。岡山輝明は、東京都の高校教育改革の見通しの誤りを、現場の人間として告発している。佐藤剛は、児童養護施設の子どもの不登校問題について、自身の見解を述べている。赤松晶子は、病院の対応によって苦境に落とされる「精神病者」の実態を、告発的に語っている。
秋の合宿学習会が11月6日〜7日の日程で、場所を熱海に移して行われる。多くの方が参加されることを期待している。