「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」に反対する声明

2012/05/13

「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」に反対する声明

日本社会臨床学会運営委員会(委員長 中島浩籌)

超党派、両院国会議員112名(2012. 3. 7現在)からなる「尊厳死法制化を考える議員連盟」は、すでに「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」を公表して、「尊厳死法」の制定を目指して、国会内外で活動している。

私たちは、福祉・医療・教育に関わる諸問題を、例えば脳死・臓器移植問題では、能力主義、障害者差別、優生思想などの観点から、臨床的・理論的に考え解こうとしてきたが、以下の理由で、本「法律案(仮称)」に示された「尊厳死」を批判し、その法制化に反対する。

 

この法律案は、「終末期」を「患者が傷病について行い得る全ての適切な治療を受けた場合であっても回復の可能性がなく、かつ死期が間近であると判定された状態にある期間」と規定しているが、この判定は「必要な知識及び経験に有する二人以上の医師」によってなされる、となっている。

「終末期」とは、医師によって「生かす医療は無効」「間もなく死ぬ」と判断されたときから死ぬまでの期間を指すというのだが、この期間の医療は「単に当該患者の生存期間の延長を目的とする延命措置」と蔑まれ、ここには、だれもが生き続ける上で必須な「栄養又は水分の補給」すらが含まれている。

本法律案では、このような「延命措置の不開始」にあたって、まずは「患者の意思の尊重」が求められているのだが、このことに先んじて、既述のように値踏みされた「終末期」「延命措置」があるのだから、「延命措置の不開始」は当該の患者に社会的・経済的に強要されている事態である。すなわち、「患者の意思の尊重」(尊厳死)は、この事態の隠ぺいであり合理化であると言わなくてはならない。

かくて、「終末期の医療」は「死なす(殺す)」行為となるほかなくなるのだが、本法律案は、そのことを想定しているがゆえに、「延命措置の不開始については、民事上、刑事上及び行政上の責任は問われない」とわざわざ強調して、医師の立場を防衛している。加えて、「尊厳死」は、当該患者の自殺でもないことを明記して、生命保険契約などにおける不利益を受けないと断っている。

最後に、本法律案は、「終末期の医療に関する啓発等」の施策化を提言しているが、国民に対して、「終末期」にはるかに先んじて、運転免許証や医療保険の被保険者証等で「延命措置の不開始」宣言(リヴィング・ウイル)を明記することを求めている。当該議員連盟や日本尊厳死協会などは、今後、「尊厳死」に関する啓発と普及に伴なって、(今回、本法律案では意識的に回避している)「延命措置の中止」を書き加え、「遷延性意識障害(持続的植物状態)」などを対象として明記したいようである。

すでに、人工呼吸器を付けて暮らす人々など、障害者たち側から、幾つも尊厳死法制化に反対する声明が公開されているが、私たちも、「少子高齢化社会」を声高に叫ぶなかで進行する医療・福祉の効率化・合理化の下で、「生きるに値しない」者と判定された者から順に「死なす(殺す)」対象となって当然である、としていく政治と世論の動向を警戒しながら、尊厳死の法制化に強く反対する。

連絡先 日本社会臨床学会事務局

茨城県水戸市文京2-1-1 茨城大学教育学部情報文化教室林研究室

E-mail; shakai.rinsho@gmail.com WWW http://sharin.jp/