社会臨床雑誌第19巻第3号

社会臨床雑誌第19巻第3号
2012年4月15日

はじめに. 日本社会臨床学会編集委員会. 1

【日本社会臨床学会第 19 回総会報告(2011 年 5 月 14 〜 15 日 於東京都足立区・帝京科学大学】
シンポジウム II 不安定雇用をどう捉えるか〜ジェンダー・若者の「自立」を通して.2
 話題提供 1 「甘ったれた助成」を温存する不安定雇用.梶原公子.3
 話題提供 2 不安定雇用状況下でニーチェ哲学が読まれることの意義.井上芳保. 11
 討論. 23

〈論文〉
「臨床」をめぐる雑記(1).三輪寿二. 36 「近代家族」終焉の諸相.原田牧雄. 43 「タイガーマスク現象」とは何か―「権利としての福祉」から「恩恵としての福祉」への逆行を読む―.天羽浩一. 57
野生児神話と〈近代教育〉の物語.吉田直哉. 69
〈「終わらない」/「見えない」ハンセン病問題を理解するために〉ハンセン病隔離に関する研究の現状と課題 .宇内一文. 79
米国障害児教育関連訴訟における無償適切公教育の達成判断基準に関する一考察 .長野麻由実. 87

〈映画や本で考える〉
梶原公子『女性が甘ったれるわけ』を読む.篠原睦治. 99

〈ここの場所から〉
長編詩 2 編.江端一起. 102
日本社会臨床学会第 20 回総会の案内. 表紙裏 編集後記. 114

はじめに

日本社会臨床学会編集委員会

今号は、紙数の関係で先号に掲載できなかった第 19 回総会のシンポジウム II の報告からスタートする。 このシンポジウムは、一昨年の合宿学習会の議論を踏まえ、「不安定雇用をどう捉えるか〜ジェンダー・若 者の『自立』を通して〜」というテーマで行われた。梶原公子は、不安定雇用は「甘ったれた女性」を温 存すると同時に、「終身雇用」に囚われない新たな女性の可能性を生かすものとしても捉えられると主張す る。井上芳保は、若い女性が示すニーチェへの関心を考察し、女性の新たな自立と尊厳のあり様を探っている。
論文は 6 本ある。三輪寿二は、自分にとって「臨床」とは何かを、具体的経験に沿った緻密な論理で描 き出している。この論文は連載という形で続けられる予定である。原田牧雄は、終焉を迎えていると言われ ながら、終わりの見えない「近代家族」の諸相を論じている。この論文は、上記のシンポジウム II を受け て書かれたものである。天羽浩一の論文は、ここのところ毎年話題となっている「タイガーマスク現象」の 風潮を批判し、児童養護施設の子どもたちは、社会に対する異議申し立ての主体なのだ、と明解に主張し ている。吉田直哉の論文は、「野生児」の問題を近代教育との関連で論じたものだが、「子供と野生児」「言 葉と言葉で表せないもの(インファンス)」といった相対立する事象の矛盾の中に「近代」の原動力を見出 そうとする野心的な試みでもある。宇内一文の論文は連載の 2 回目である。ハンセン病の隔離が「終わら ない」「見えない」ことに向き合い、日常的な差別が、根深く残っている問題を、構造的、関係的な視点か ら捉え返そうとしている。長野麻由美の論文は、米国における障害児教育に関する様々な訴訟判例を取り 上げて、無償適切公教育(FAPE)が、障害のある児童の個別特殊な教育要求にどこまで応えられるように なったかを、丁寧に追跡している。この論文については、分断教育に反対する立場からの批判も含めて、様々 に論議されるものと思われる。
〈映画や本で考える〉のコーナーでは、篠原睦治が、梶原公子の『女性が甘ったれるわけ』を読み、梶 原の意見に共感しつつも、自身の生活経験などを踏まえ、男女が平等に主体性・自立性を求めることの矛盾・ 課題を指摘している。この文章もシンポジウムIIの報告と併せてお読みいただけるとありがたい。
〈ここの場所から〉に掲載した江端一起の 2 編の長編詩は、精神障害者に関わる人々の変節や制度の改 悪によって、追い詰められていく障害者の日常、その痛切な思いを直示的表現によって強く訴えている。

今号は本来なら予告したように速やかに発行すべきだったのだが、編集担当者の多忙と事務局のパソコ ンの故障や大学のシステムの不具合が重なって、発送が大幅に遅れてしまった。今後は編集体制を見直し、 できる限りスムースな発行が行えるよう努力したいと考えている。