声明「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」の成立に反対する

声明「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」の成立に反対する

2016年09月11日

日本社会臨床学会運営委員会

私たち日本社会臨床学会運営委員会は、障害、能力、特性等によって人を分けないという方向性を提起しながら、共に暮らすことを模索してきました。したがって、以下の理由により、臨時国会で審議予定となっている「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」(以下、教育機会確保法案)の成立に反対します。

本法案は第2条2項において、「不登校児童生徒」を、「相当の期間学校を欠席する生徒のうち」「学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由」によって「就学困難な状況」にあると文部科学大臣が認めた者、と定義しています。

文科省は90年代に入ってから、「不登校」を病気とは捉えていませんし、「問題行動」とも規定せず、どの児童生徒にも起こりうることと捉えています。児童生徒本人に原因を求めようとする立場には警戒すべきとの言説もみられます。しかし、本法案では、「不登校児童生徒」を特別に「困難な状況にある生徒」として規定しており、それはすなわち、そうした生徒を特別な存在と見ていることになります。

そう規定した上で、学校における「適切な支援が組織的かつ継続的に行われる」よう、「支援の状況に関わる情報」を「教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者相互間で共有することを促進する」(第9条)となっています。そして「学校以外の場において行う学習活動の状況」及び「不登校児童生徒の心身の状況」を「継続的に把握するために必要な措置を講ずる」としています(第12条)。

学校・フリースクール・家庭など、場所によって人々が児童生徒を見る眼差しは違っています。ある場所ある人たちとの出会いの中で、今までになかった視点に遭遇し、それを契機に新しい生き方を模索し始めていく人も少なくありません。しかし、この法案では、学校内外での支援が継続的に統一的に行われていくことが目指され、そのために、情報の共有が求められています。このこと、つまり組織的、継続的、統一的な支援や情報の共有・管理は、それぞれが持っている差異をなくし、均質化された関わりを作ることにしかならないと危惧せざるをえません。

また、「不登校児童生徒」のために、「その実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校」を整備するとしています(第10条)。これはまさに生徒の実態や状況・ケースに即した特別な支援・教育を行っていくということであり、さらなる分離教育システムを形成することでもあります。

以上、この教育機会確保法案は、「不登校児童生徒」を特別な状況にある人と規定し、組織的継続的な支援、情報共有・管理を行い、特別に編成された教育を実施することを目指しています。これは、「不登校」に対するマイナスイメージと特別視を強め、分離教育、新たな差別視へと向かうことにしかならないと考え、私たちは本法案の成立に反対します。

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