〈声明〉教育基本法の「改正」に抗議する

〈声明〉教育基本法の「改正」に抗議する

2007年1月14日

日本社会臨床学会運営委員会

昨年12月15日、「改正」教育基本法が国会で成立した。慎重審議を求める多方面からの意見を黙殺し、審議時間が一定程度に達して形が整ったことを根拠に、自民党と公明党の与党だけで政府案の採決が強行されたのである。この採決強行は、国会議員会館前や全国各地で次第に参加者を増やしつつあった反対運動を無視し、また「改正」に向けた世論作り工作として、政府主催のタウンミーティングで行われていた「やらせ」問題の責任を曖昧にするものである。

1947 年3月31日に施行された教育基本法が、初めて女性が選挙権を行使した帝国議会において、審議過程が全て公開されてきた教育刷新委員会の原案通り満場一致で可決された経過と比べれば、今回の全面的な「改正」は教育の在り方の根本を改める上で甚だしく説得力を欠くものである。しかも伊吹文部科学大臣が衆議院特別委員会でいみじくも説明したように、「改正」案は自民党の憲法草案との整合性をチェックした上で国会に提出されている。徹底した平和主義と基本的人権の尊重を理念とする日本国憲法に反するものであることは明らかである。「改正」法成立と同じ日に、国会では防衛庁を省に格上げする防衛省設置法と自衛隊の海外活動を本来任務とする「改正」自衛隊法も成立している。アメリカの世界戦略に呼応して国際貢献の名の下に戦争のできる国への準備が一段と整えられたのである。このままでは国民投票法案の成立が急がれるなど、政府による憲法「改正」への動きが一気に加速するに違いない。

私達日本社会臨床学会は、2004年の東京総会、2006年の沖縄総会と、これまで二回にわたって「改正」に反対する声明を出してきた。この「改正」は、教育の国家支配だけに集約される問題ではなく、グローバル化による徹底した労働の解体と人間関係の切断の中で、人々の生き方・暮らし方を学校、家庭、地域などあらゆる場面で、しかも生涯にわたって直接に国家に引き寄せることにねらいがある。能力の名の下に格差社会を押し広げ、男女共学をはずし、障害者は括りだす。愛国心を基軸とする道徳を掲げ、子どもや若者をはじめ人々の内面を絡め取ろうとするものである。同時に「改正」法の成立は、学校教育にも本格的な市場開放の道を開くものと考えられる。これは人々の階層差を一層拡大し、教職員の身分を不安定化させるなど、教育現場をますます混乱に陥れるに違いない。

このように「改正」法は、前世紀の終わりから進行してきた新自由主義の教育改革を踏まえて、公教育制度を国家の支配装置として再定義し、自発的に国家に従う国民をつくろうと意図したものである。私達は「改正」教育基本法の成立に強く抗議すると共に、生まれてきた人間が性別・年齢を問わず、また障害のある人、国籍・民族を異にする人など、多様な人々と対等な関係を結びながら生活する社会的な道筋を創造しなければならないことを改めて訴える。